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クロ8世の歌(散文)

ある日、
俺の家のワン公がグルグル回りだした。
俺の住んどったマンションの屋上の、サクの外の、ほんの数十センチのコンクリートの場所を回りだした。

グルグル、グルグル、グルグル、グルグル回りだした。
本当、気色悪うなる位、
グルグル、グルグル、グルグル、グルグル回りだした。
 
俺が高三の夏、まだワン公は回っとらんかった。
俺の家のワン公達は、代々、雄が「クロ」、雌が「シロ」という名前を襲名する事になっとる。
クロは一体何代目のクロだったやろか?
おれがこもうて(小さい)まだ神さんの手のひらで転がっとる時代のヤツから数えて、
7代目か・・・・それとも8代目か?
 
多分「クロ8世」やと思う。

その「クロ8世」が俺が東京に行った時位からおかしいなったらしい。

クロはシロをそっちのけでグルグルダンスを始めたんよ。
いろいろ話聞いたらな、クロは一日二回の散歩じゃあきたらんけんグルグル散歩しだしたらしいんよ。
たったな、数十メートル四方の屋上を一番なごう走ろうとおもたらな、グルグルダンスやるしかないらしいんよナ。

「シロ」毎日、「クロ」のグルグルダンスを見よったらしい。
妹はクロが狂ったと思たんやて、
トオちゃんはもっと長う散歩さしてやろうと思たんやて・・・
ボケたバアちゃんはどう思たんかいのォ。聞く前に、バアちゃんは天国に行ってしもた。

とにかく「クロ」のグルグルダンスは日々加速度を増して行ったらしい。
まるで光の輪が屋上を疾走するかのごとくグルグル、グルグル、
レットゾーンを越えるスピードで、四角く走ったんよ。

何かな、高校時代の俺の友達が、俺んとこのマンションの下を通りよった時、
モノ凄いスピードでケモノが走っとるのを見て、パニくって車線変更した位、凄い早さやったらしいんよ。


グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
「クロ」は走ったんよ。

グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、

「明けても、くれても」

グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、
グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、グルグルグルグル、

グルグル・・・・・トーン

グルグルダンスのあげく、
「黒」は飛んだんよ。

「シロ」の見よる前で、クロは日本国の四国の、
愛媛県の松山市高砂町二丁目の6F建てのマンション「ゴールデンハイツ高砂」の屋上から
赤レンガの道路に向けて飛んだんよ。

その年の夏、俺はビールのアワにおぼれとって東京で終戦記念日をすごした。
やけん「クロ」の事は電話で聞いたんよ。
一番かわいがったった妹にしては、結構冷静な声でこう言うた。
「お兄ちゃん、クロが自殺してしもた。」

第一発見者のオヤジはたいそう驚いたらしい。
なんせマンションの周りを掃除しよる時に、いきなり自分の飼い犬が落ちてきたんで、
三十秒程、「クロ」の死体を見つめたまま、はき掃除しよったらしい。

そして、死体を掃除して、この事を妹にどう言うべきかかんがえてしもて、
ええ加減困り果てたあげく、妹に言うた言葉が、

「ユカちゃん、クロなァ・・・・
モノ凄ォ大きいトンビがやって来てな、どっかに連れて行ってしもたんよ」

・・・・・妹の事を気づかったオヤジの気持ちは分からんでもないが、
中学一年生の少女にそんな言葉が通じるわけはないわわナ・・・・

まして妹は、事前にクロの事を母親に聞いとったけんオヤジが「クロ」が死んだショックで、
おかしなったんかと思ったんやて、

三回目の夏、俺は帰ってきた。
なつかしの都、ボッチャンダンゴの都、我が故郷松山に帰ってきた。

俺は何げなく屋上に上がってみた。
そこには「シロ」と、新しい番犬「タカ」がおった。
オヤジはクロの死がよほどこたえたらしく。新しい犬に「クロ」を襲名っさんかったらしい。

「タカ」はグルグルダンスのダの字もする気配はなかった。
「タカ」は未亡人の「シロ」に寄り添うように座り、夕日を見とった。

おれは意味無く、上半身をサクから乗り出し、赤レンガの通りを見た。
その一瞬、レンガに吸い込まれそうな気して、あわてて、身をもどした。
背中に少し寒気が走った。

俺はゆっくり「タカ」と「シロ」の方を向いた。
二匹は相も変わらず、何百年も前からそこに居る様なツラして夕日を見よる。
俺は何となく飛び降り自殺した某有名男優の事を思い出した。

「クロ」があの世で、某有名男優とじゃれ会っとる所を想像して小さく溜め息をついた。
「クロ」の死について色々理由はつける事が出来るとは思うけど俺はそれをする気にはなれんかった。
たぶん「真実」は「クロ」にしか分からんことやから・・・・

俺はその「真実」ちゅうやつは、俺がジジィになってあの世に行けた時、クロに聞く事にした。
それが一番自然な気がしたんよ。

それにしても、久しぶりに見た故郷の景色は美しかった。
松山城の木々も、堀の白鳥達も、海に反射して金色に輝く夕日も、全てが本当に美しかった。
まるで自分が観光客になったような気がした俺は
頭の中で目の前の景色と「クロ」の顔を混ぜ合わせ、東京に持ち帰ることに決めた。

そして四回目の夏がやって来た。
俺はいつもの様にビールのアワにおぼれて、TVの松山商業の守備にヤジを飛ばしとった。

すると電話が鳴った。
スズ虫みたいに電話がリンリン鳴りよった。

受話機を取ると、母親の声がした。
「ヨースケ。ウチのマンションから人が飛び降りよった」

カキーン。

その時、TVの中の名も知らぬ高校球児が最後の夏にライトフライを打ち上げましたとサ。

 

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